呉市立美術館
近現代の美術作品を所蔵し特別展も開催|呉市立美術館

開館時間

●10時〜17時
(入館は16時30分まで)

休館日

●毎週火曜日
(火曜が祝日・振替休日の場合は、その翌日)
●年末・年始(12月29日〜1月3日)
※展示替え等で臨時に休館する場合があります
 
は休館日
 
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リモートミュージアム 呉市美コレクションであそぼう!

(その1)まとめ

呉市立美術館では、所蔵作品をおうちで楽しむ「リモートミュージアム 呉市美コレクションであそぼう!」を企画し、5月下旬からウェブサイトとTwitter上にて皆様に向けて参加者を募りました。第1回にご参加くださった皆様、ありがとうございます!

今後も毎月1作品のペースで、リモートミュージアムにて作品をご紹介していく予定です。次回もたくさんの方のご参加をお待ちしています。

「リモートミュージアム 呉市美コレクションであそぼう!」(その1)

内容:呉市立美術館の所蔵作品を使ったクイズ(絵解き)
参加方法:Google Formを使ったアンケート回答
参加受付期間:5月27日(水)〜6月10日(水)

第1回のお題は、桂ゆきのこちらの作品です。

桂ゆき(1913-1991)

桂ゆきは1913(大正2)年、東京都文京区に生まれました。本名は雪子(ゆきこ)といいます。父の弁三は東京帝国大学教授をつとめる冶金学者でした。
1926(昭和元)年東京府立第五高等女学校に入学し、この年から両親の勧めにより池上秀畝の下で日本画を学びました。しかし、もとから油絵修学を希望していたため2年程で日本画修学をやめ、女学校卒業の年から、洋画家中村研一に学び始めました。1933(昭和8)年、第20回光風会展に「庭」「海岸風景」「冬」を出品して初入選しました。しかし伝統的な絵画様式に不満を持ち始めた桂は、同年より、アヴァンギャルド洋画研究所に通い始めます。研究所で出会った斎藤義重たちがすでに抽象画に取り組んでいることに刺激を受けた桂は、紙に木の葉やぼろきれ、ガラス、レースなどを貼り付けて画面を構成する「コラージュ」の技法を用いて作品制作をするようになります。1935(昭和10)年には銀座で「桂ユキ子コラージュ展」を開催しており、その後も桂は作品にコラージュ技法を取り入れていきます。
1936(昭和9)年、第22回二科展に「祭」で初入選。翌年には吉原治良、山口長男とともに、二科会の中でも前衛・抽象画を目指す九室会を創立します。
戦後は、1946(昭和21)年女流画家協会設立に参加しています。1956(昭和31)年渡仏し、6年にわたってフランス、アメリカに滞在。パリのポンピドゥー・センターで行なわれたインターナショナル・ウォアマンアート展、米国アリゾナ大学アート・ギャラリーでのインターナショナル・コンテンポラリィ・ペインティング展、ミラノのプレミオ・リソーネ展、米国第27回コーコラン・ビエンナーレ等に出品したほか、パリのイルス・ワレール・ギャラリーで個展を、米国ワシントンのグレス・ギャラリーで岡田謙三、川端実らとグループ展を開催するなど、国際舞台でも精力的な活動を見せました。
戦前からコルク、新聞紙、レース等のコラージュによる前衛的な作品を発表し、戦後には痛烈な社会風刺とユーモアを含む制作を展開しました。通常の「美術」の枠組にとらわれない自由な発想にもとづく作品は、常に既成概念を打ち破る革新性に満ちています。

Q1:下の図版は、桂ゆきが1950年に制作した油彩作品です。画面の中にはどのようなものが描かれていますか。画面をよく観察して、見つけたものを挙げてみましょう。

皆さんから挙げていただいたモチーフを列挙してみます。

・(黒い)傘

・人(胎児、赤ちゃん)

・新聞

・ほうき

・バナナ

・行李(旅行かばん)

・本(手帳)

・街の風景(ビル街、工場のある港)

・鳥(朱雀、鳳凰?)

・画材

・シーツ

・絣

・蝶みたいな虫


皆さんにたくさん見つけていただきました。
人物と思われるモチーフの向かって左側、筆など画材のモチーフとともに、当時の一万円の札束も描かれています。
布地の切れ端や新聞紙などは、桂の他の作品でもたびたび登場するモチーフです。桂はこうした可変性のある身近な日用品に親しみを持ち、繰り返し描いています。

Q2:この作品は実際にあった出来事を題材にしています。作品を観察して、あなたはこの絵にはどのような場面が描かれていると思いましたか。自由に記述してください。

・「突然の日常の崩壊(天災によるもの)」(mocchi さん)

・「他国又は他人から受けた暴力」(ととろぱぱ さん)

・「報道され表に見えやすい新聞の情報や明るい街並みの映像の陰で、目につかないように閉じられていく個人や芸術、錆びれた町」(呉に片思い さん)

・「戦争と原爆、復興」(もぐら さん)

・「傘をさして新聞紙と箒から人を守ろうとしているところ?」(なみもん さん)

・「貧困に苦しむ人が、その人に対する世界の目を避けようとするところ」(もと さん)

・「雨の日にした掃除」(すっさん さん)

A:台風を題材に描かれたと考えられています。

様々なモチーフが寄せ集められている中で、人物らしきモチーフが、つぎはぎのある黒い傘の下に描かれています。傘の上には散らばった新聞紙が、人物の向かって左側には、くしゃくしゃに丸まった紙片やシーツ、中途半端に開いた本などが見えます。整った綺麗な空間というよりは、荒れた印象を受けます。
人物は口を開け、丸まった姿勢をとり、傘の下で必死に何かに耐えているようにも見えます。何かから身を守っているのでしょうか。

桂ゆきが本作を描いたのは、1950(昭和25)年です。終戦から5年の、社会がまだ心もとない時期です。さらにこの頃の日本は、1945(昭和20年)9月の枕崎台風をはじめ、1947(昭和22)年の台風9号(カスリーン台風)、1948(昭和23)年の台風21号(アイオン台風)、1949(昭和24)年の台風10号(キティ台風)など、毎年のように台風被害に見舞われました。1950年の9月には、台風28号(ジェーン台風)が四国から近畿地方にかけてを襲い、猛烈な暴風によって、甚大な被害が出ました。桂はいずれの台風でも直接的に被災したわけではありませんが、戦後の混乱期において「泣きっ面に蜂」ともいえる台風を、自身の画題に選びました。

背景には、青空も見える街の風景とともに、下部には暗くどんよりとした水辺の街が描かれています。台風被害の前後を示しているのか、はたまた被害のあった街となかった街を対比させているのでしょうか。桂ゆきらしい、写実性を備えながらも戯画的な作風によって、天災という重い主題が軽妙ながら迫真性を持って描き出されています。
人物の向かって右側には、赤色の四角の中に、鳳凰のような鳥の姿も見えます。復興への祈りのようにも、災害によって多くを失ってもまた立ち上がる人々の象徴のようにも思われます。

Q3:この絵に題名を付けるとしたら、あなたならどんな題をつけますか。自由に記述してください。

・「崩壊」(mocchi さん)

・「言われなき不誠実」(ととろぱぱ さん)

・「開かれ閉じられる世界」(呉に片思い さん)

・「消えた日常」(もぐら さん)

・「かさ」(なみもん さん)

・「私も生きてる」(もと さん)

・「梅雨も吹き飛ばす」(すっさん さん)

A:《こまった》という題がつけられています。

本作の題名は《こまった》とつけられています。誰かがぽつりとつぶやいた一言のようなシンプルな題ですが、台風の被害を受け、復興に向けて何から手を付けたらいいのかわからない被災者たちの、切実な感情が込められているように思われます。

回答いただいた皆様にも、この絵画には日常とは違う情景が描かれていることを読み取っていただき、それぞれ個性的な題をつけていただきました。

クイズの感想や、質問などあれば記述してください。(自由回答)

・答えの無いクイズなので楽しかったです。他の方がどう感じたのかも、合わせて知りたいです。(mocchi さん)

・クイズにしては、自由回答で面白かったです。(ととろぱぱ さん)

・ふだん、じっくりとひとつの作品をみて色々と考えてみる機会が少ないので、創造力をめぐらせる良い機会になりました。(呉に片思い さん)

・楽しいです。これからも続けてください。(すっさん さん)

「リモートミュージアム 呉市美コレクションであそぼう!」
(その2)は6月25日(水)ごろ公開予定です。

公開しましたら、ウェブサイトやTwitterで告知いたします。
皆様どうぞお気軽にご参加ください!